ヒュミドールの選び方
目次
ヒュミドールのタイプ(収納本数)選びのポイント
ヒュミドールをタイプ別に見た場合の選び方を、ポイントを整理してご紹介したいと思います。少し説明文が長いので、もし可能ならシガーに火を着けてから読み始めていただけると良いかと思います。
さてヒュミドールを選ぶ上で、まず最初に考える必要があるのが葉巻のストック本数です。常時何本ぐらいストックしておきたいのか、これを基準にヒュミドールの大きさを絞り込むのが良いでしょう。
ヒュミドールの大きさ(収納本数)選びのポイント
ストック本数が、ヒュミドール収納本数の半分以上になるサイズを選ぶ
例えば30本の葉巻をストックしておきたいなら、100本用ヒュミドール(3割の葉巻量)よりも50本用ヒュミドール(6割の葉巻量)を選んだ方が良いということです。
ヒュミドールの容積に対して保管している葉巻の本数が少ないと、蓋の開け閉めによる湿度変動の影響を強く受け、ヒュミドール内の湿度は安定しにくくなります。
例えば冬の乾燥期にヒュミドールの蓋を開け閉めしたあとは、ヒュミドール内に乾燥空気が取り込まれます。この時葉巻の本数が少ないと、少ない数の葉巻から大きな空隙容積の乾燥空気に湿度が奪われるのです。逆に葉巻の本数が多いとこの逆となり、葉巻1本当たりの放湿が抑えられることになります。
ヒュミドール内の木部も吸放湿により湿度調整の役目を果たします。しかし、吸放湿の速度は葉巻の方が木よりも早いため、先に葉巻が吸放湿してしまうのです。これは葉巻のブーケを飛ばしてしまう悪い状態です。湿度変動は極力抑えるためにも、中がスカスカにならないサイズのヒュミドールを選びましょう。
グラストップヒュミドールか木製蓋ヒュミドールか
グラストップのメリット
- 蓋を開けなくてもヒュミドール内の葉巻を確認できる
グラストップのデメリット
- ヒュミドール内部に光が入るため、置き場所によっては太陽光の紫外線、強い照明の光線・熱線が葉巻にダメージを与える
細かな点を除けば、二つの違いは上記のメリット・デメリットに集約されます。
要はグラストップヒュミドールでも、ガラス面に光を遮る物をかぶせておけば何ら問題ありません。
ヒュミドールの大きさ選びにも書きましたが、葉巻の味を落とす大きな原因の一つが湿度変動です。バーなどではヒュミドールの中をご覧になりたがるお客様がいますが、見るだけのために蓋を開け閉めしても、やはり葉巻は湿度変化にさらされるのです。これは良くありませんね。これがグラストップだと、見たいだけのお客様なら蓋を閉めたまま見ていただくこともできます。
個人でお使いになるヒュミドールでも同じ事が言えます。葉巻の状態が気になって、一日に何度も蓋を開けてしまいそうだという方は、是非グラストップタイプのヒュミドールをお選びください。そして蓋の開け閉めは最小限にして、ヒュミドールの置き場所は直射日光や強いライトの当たらない場所に、できればグラストップの上に光を遮る厚手の布などをかぶせておかれるのがベストでしょう。
必要なときにしか私はヒュミドールを開けないよ、中は特に見えなくても良いという方は、木製蓋のヒュミドールが良いでしょう。
では冒頭で書いたこれら二つの「細かな違い」は何なのかというと、グラストップタイプのヒュミドールには、蓋の裏側に加湿器が取り付けられないという事です。
ヒュミドール内にセットされた加湿器の水分は、常温で水蒸気となって下に下降していきます。つまりヒュミドール全体をまんべんなく加湿するには、蓋の裏側の真ん中が取り付け位置として最も適した場所だと言えます。しかし理論上望ましいと思われるこの加湿器の取り付け位置も、蓋と閉じた時に直下にある葉巻は湿度が上がりやすいという問題もありますので、多少注意が必要です。
2面以上にガラスが使われたディスプレイヒュミドール
これはいわば葉巻のショーケースです。葉巻がよく見えて楽しいヒュミドールですが、やはり用途としては葉巻の販売向きで、個人用葉巻の保管には不向きです。
理由は、入れられる葉巻の量に対して空隙容積が大きいことと、葉巻が外光にさらされやすいことです。中に入れる葉巻の回転が速いのであれば、ディスプレイ効果としては最大級のものですので、葉巻の販売などで使う場合には最適です。
引き出し付きのヒュミドール
葉巻と葉巻の道具一式(シガーカッターやライター、マッチなど)を、一箇所にまとめて保管しておきたい方にお薦めです。ただ、外寸が同じ通常のヒュミドールと比較すると、葉巻の収納本数は少なくなります。
葉巻の保管量と“調湿”管理
最後に、大事なことを二つ書いておきます。
一つめは、ヒュミドールに対してどの程度葉巻を入れておくのが良いのかということです。これは、加湿器の取り付け位置によって答えが変わってきます。
裏蓋に加湿器が取り付けられているヒュミドール(木製蓋の製品など)では、葉巻は7~8割の量で抑えた方が良いでしょう。これは、加湿器直下の葉巻が過加湿になりやすいためで、葉巻をいっぱいに入れていると加湿器に接している葉巻だけが大量に水分を吸収してしまうからです。
加湿器をヒュミドール内の底や側面、トレイに据え置くタイプなどの場合は、加湿器から葉巻を多少離してやれば、7~8割に抑える必要はないでしょう。
いずれにしても、ヒュミドールに付属の一般的な加湿器からは水分が放湿されていて、たとえ葉巻が過加湿になっても加湿器はそれを自然に止めてはくれないことを理解しておいた方が良いでしょう。
この加湿のみ一方向の問題を100%解決するのが、オートマチック湿度調整剤(Boveda)です。この製品は加湿と吸湿を行い、パーフェクトな設定湿度にヒュミドール内を維持します。これを入れておけば、ヒュミドールに満タン状態で葉巻を入れても全く問題ありません。何故なら、ヒュミドールのような部分加湿ではなく全体加湿をしているウォークインヒュミドールに寝かされた葉巻のボックスは、ドレスボックスにしろ、キャビネットボックスにしろ、木製の箱の中にギッシリ葉巻が詰められているからです。
つまり葉巻の保管には、空隙が必要なのではないのです。問題は加湿のみをワンウェイで行う、部分加湿に問題があるということなのです。
これが大事なことの二つめです。葉巻を良いコンディションに保つには、ムラのない湿度、変動の少ない湿度、そして葉巻の芳香成分である揮発性油分を大気へ開放して放出してしまわないよう、ヒュミドールの開閉を極力少なくしてやることなのです。
長々と書きましたが、ヒュミドールを選ばれる際にはぜひ参考にされてください。
なお、ダビドフなどの高品位なヒュミドールをお持ちの方は、加湿器に水を入れすぎないよう注意してください。高品質なヒュミドールは気密性が高いわりに、何故か大型の加湿器が付いていることが多いので、水を多く入れすぎると過加湿になりやすいのです。乾燥場所での開閉が多いような使い方の場合は別ですが、通常は水の補給は僅かで良いでしょう。
以下、ヒュミドールについて質問させて下さい。
1) 手持ちのヒュミドールに埋め込みタイプの湿度計が壊れてしまいました。(針も抜けてしまった) 直径は5センチ程度の周りが金色をしていて、正に上記のコラムに写真が載っているヒュミドールについているものと同じようなものに見えます。ヒュミドールは以前に中古で手に入れたものでメーカー名も何も書いてなく判らないのですが、大事なので湿度計だけ手に入れたいと思いますが、入手可能でしょうか?
2) このヒュミドールは木製ですが、木の香りが致します。以前より疑問に思っていたのですが、独自に香りを持つ葉巻をこの中に入れて木の香りをうつしてしまって良いのか? この点、専門家はどう考えているのか、
教えて頂ければ幸甚です。
円形のアナログ湿度計は当店でも取り扱いがありますが、恐らくお持ちのヒュミドールの穴にサイズが合わないのではないかと思います。アナログ湿度計の構造は、分解してみると実に簡単ですので、一度解体されてみてはいかがでしょうか。
針も、再度芯に押し込んでみてぐらつきがなければ、湿度計として機能すると思います。ただヒュミドールとしてご使用になられるのであれば、湿度計の再調整はしっかりと行って下さい。
新品のヒュミドールは確かにスパニッシュシダーの木の香りがします。しかし、これに葉巻を入れたからと言って葉巻に悪い影響を与えることは無いと言って良いでしょう。
葉巻が工場から出荷される際にはスパニッシュシダー製の箱に詰められます。この箱は当然、新鮮な木の香りを放っていますが、もしこの香りが葉巻に悪い影響を与えるのなら、葉巻メーカーも長年使い続けてはいないでしょう。また十年以上もの長い熟成期間中、ずっとこの木箱の中で眠り続ける葉巻も多くあるのです。仮に木の芳香が葉巻の風味に多少の影響を与えるとしても、木の持つ防虫防腐効果、通気調湿機能のメリットの方が上回っているのだと思います。
数ある木の中でスパニッシュシダーが葉巻保管に最も適した木なのかどうかは厳密にはわかりません。葉巻の主要な産地であるカリブ海沿岸の中米における材料調達の難易度、コストなども含めた総合的な視点から、経験的にスパニッシュシダーが使われてきたものと思われます。
ところで、ヒュミドールに葉巻を入れて使い続けるとわかることですが、木の香りは徐々に失われます。そして逆にヒュミドールの内部に葉巻の香りが移ります。それほど葉巻の芳香は強いということです。日本の杉や檜ほどの強烈な香りともなれば、もしかすると葉巻の風味まで変えてしまうかもしれませんが、スパニッシュシダーの香りの強さ程度であれば“もし影響はあっても僅か”と言っていいのではないでしょうか。
RIO様
早々にご回答を賜り深く感謝しております。ありがとうございました。
頂戴したコメントの説得力には殆ど感銘、といって良いほどの印象を受けています。 知識に裏打ちされたものが巧みな文章を通じて展開されると
圧倒的ですね。葉巻と箱の木の香りについての疑問が「ストンと腹に落ちた・・」感じで、久しぶりに文章の力、というものを強く感じました。
文章も流れるようで(かつ articulate)、シガーのプロにとどめておくのはちょっと勿体ないですねぇ(ご無礼な発言お許し下さい!)
湿度計については、アドバイスを受け、何とか自分で修理できないかトライを開始し、分解して何とか針も取り付けてみました。現状、湿度に反応して針は動いていますがバイメタル部分にも少しよじれ等がある為、常にallowable な湿度を示すか少し不安です。現在、別の湿度計とともにチェック中です。
一方で箱の穴の直径は47ミリでした。何となくヒュミドール規格みたいのが(偉くローカルですな)あるのではないかと勝手に想像したのですが、それぞれがまちまちのサイズなのでしょうか?
申し上げたようにこのヒュミドールは中古で手に入れたものですが使用した形跡がなく、まだたっぷり木の香りがしております。 仰られるように葉巻の香りの方がはるかに強いでしょうから、使えば直ぐに葉巻の香りが移るのでしょうね。 となると今度は一緒に入れる葉巻(特に隣、上下同士)の種類の方に余計に気を使う必要が出てくるかも? パルタガスなど時に動物的な香りを感じさせるものがありますので、虎の子のコィーバやトリニダッドの傍には置きたくねえな、なんてね。 このマニアックな心配症には際限がないので手に負えませんわ、ホント(笑)。
ありがとうございました。
別所
過分なお褒めの言葉を頂戴して、恐縮しております。
シガーの本でも書いたら売れるでしょうか?(笑)
ヒュミドールの湿度計用穴は、特にはJISのような規格基準がありませんので、メーカーによってまちまちです。
異なるブランドの葉巻を一つのヒュミドールに保管する場合、長期に渡る保管の場合は風味の融合が考えられますが、数ヶ月程度であれば少なくとも私は、知覚できるほどの変化は無いように感じます。しかし、長期保管するのであれば、工場出荷時の葉巻ボックスのまま大型のヒュミドールで保管したほうが良いと思います。
こちらこそ、ご質問をいただきありがとうございました。