ドローの悪い葉巻に当たったら…
今日はまとまった車での移動時間が日中あったので、車に乗り込む前に約10年熟成のベゲロス・エシペシアレス No.2(ボックスコードSCO DIC00)に火を着けた。
ところが運悪く、このシガーのドローがかなり悪い(2000年前後に巻かれたシガーには結構あることなのだが)。
当時、ドロー不良の遭遇確率の高さから悪名高かったラギートNo.1(ヴィトラ名)よりは幾分マシなものの、やはりドローの悪い葉巻の多かったのがラギートNo.2で、ベゲロス・エシペシアレス No.2も同じヴィトラだ。
どこが悪いのかとシガーを触って確かめてみると、困ったことにヘッドが固巻きである。これでは薫らしていく内にますますドローが悪くなること必至なので、思い切ってヘッドを1センチほどキャップごと切り落とすことにした。ラッパーがほどけてくるかと心配したが、リングのおかげか運良くラッパーは剥がれない。
そして車に乗り込み「よしこれで少しは良いか…。」と思って一吸い。
いや、やはりまだ良くない。シガーを注意深く触ってみると、ヘッド側が端から2センチほど固い。フラットカッターを持ってくるんだったと思うがもう遅い。
普段なら諦めて薫らすのをやめるほどのドローの悪さだったのだが、移動時間のシガータイムを楽しみにしていたので、何とかまともに吸える状態にしたい。さてどうしようか…。
もう車を出してしまったので、ドローポーカーなどのエアの通り道をつくる道具は持っていない。フィラーの中心部の葉を少しだけ引き抜くことが出来るとドローが改善されるのを経験的に知っていたのでこれも試しては見たが、何せ固巻きなので全く引き抜けない。
困った私はここである方法を初めて試みてみた。それは、巻きの堅い部分を押しつぶし、また90度方向に押しつぶすのを繰り返すというものである。
ラッパーが割れないようにゆっくりと慎重に何度が押してみる。するとどうだろう、かなりドローが改善されたではないか。恐らく2方向から何度も押しつぶすことで、葉巻の中心部に空気の通り道が出来たのだと思われる。結局、普通に薫らすことの出来る状態になった。
ベゲロスはブランドの生い立ちに相応しく、ピナール・デル・リオのタバコ農園のハウスシガーにとても近い風味を持っている。彼らのたくましい生き方に似た力強い紫煙を薫らせると、ロバイナ農園でロバイナ翁からいただいて彼と一緒に薫らしたシガーの記憶が鮮烈に蘇る。
抜けるような空と農園のゆっくりとした時間の記憶が、シガーの香りと共に車内を満たされていく。
今でこそドローイングテストマシーンが使用され、ドローが適正値範囲外にあるシガーは巻き直しとなるが、2000年当時、キューバの葉巻工場にはまだこの機械が導入されていなかった。
この行儀の悪いシガーも、キューバの職人たちの手を数多く経て巻かれたものなのだ。ドローが悪いのは腹立たしく感じても、だからといってそれを捨ててしまうのは忍びない。
だから出来の悪い子がいれば、手を貸してやればいい。おかげで私は、今日という日に豊かな時間を過ごすことが出来たのだ。この葉巻と出会い、最後まで灰にすることが出来たことに感謝したい。
しかしそれにしても、ベゲロスは強い。10年経ってもまだ熟成のピークを迎えてないようだ。
このシガーを当店からのプレゼントシガーとして受け取られたラッキーな方がごく少数おられるが、もしドローが悪くても怒らないでいただければ幸いである。あなたが少しだけ手を貸せば、豊かで心満たされた時間が待っているかもしれないのだから。
今吸っていたエル・レイ・デルムンド ショワスプレームがまさにこの記事のような状態でした。早速RIOさんのマネをしてみたところバッチリ最後までおいしく頂くことが出来ました。私も葉巻への愛と感謝の気持ちを忘れずにシガーライフを満喫したいと思います。とても勉強になる記事をありがとうございます。