ハムレットとの葉巻談義

コイーバ1966を薫らすハムレット

今回、パルタガス工場のLCDHに行った際、ハムレットと2時間近く葉巻談義に花が咲いたので、その中から面白いと思った内容をいくつか紹介しようと思います。

【 Edicion Limitataのラッパーが風味に与える影響 】
毎度のことですが、ハムレットが「何か吸う?」と聞くので、当然もちろんと答えたところ、マデュロラッパーで、チャーチルよりもやや大きい葉巻を持ってきてくれました。
早速薫らしてみると、これが舌を巻くほどの美味しさなのです。是非ともこのハウスシガーの素性を知りたいと思い、ハムレットに「これは誰が巻いたの?」と聞くと、意外な答えが返ってきました。

ハムレット「Do you like it?」
私「Year, of course. This is awesome smoke!」
ハムレット、にやりと笑って一言
「This is Cohiba 1966 no ring.」
私は思わず、「Oh! Really!?」と聞き返してしまいました。

なるほど、言われてみれば確かにコイーバ1966のヴィトラ、そしてラッパーカラーです。まさか1966のノーリングが振る舞われるとは思っててもみなかったので、てっきり誰かの巻いたハウスシガーかと思っていたのです。

コイーバ1966を薫らすハムレット

コイーバ1966ノーリングを薫らすハムレット

そこからこんな話になりました。まず、私がラッパーが風味に与える影響を尋ねたのがきっかけです。
私は、「ラッパーは葉巻の重量比でも僅かなので、風味への影響はないよね?」と言ったのですが、こう考えていたのには2つの理由がありました。

1つは経験則。もう1つは、ヒロシ・ロバイナの言葉です。ヒロシはラッパーについて、こう言っていました。「ラッパーは葉巻を美しく見せる、ドレスのようなものだ」と。彼の持論は──ラッパーは風味に影響を与えない──だったのです。確かにロバイナ農園のハウスシガーは非常にラッパーが薄く繊細で、これが風味に影響を与えそうだとは思えないようなシガーです。

私の質問に、ハムレットはこう答えました。
──Edicion Limitadaの葉巻(以下ELと略)は、ラッパーの風味の影響がある──と。これは私にとって、かなり意外な答えでした。

続けてハムレットは、その理由を説明してくれました。
──ELはマデュロラッパーが使われるだろ?マデュロラッパーは、通常のラッパーよりも熟成期間が長い。普通のラッパーをマデュロになるまで熟成させるとどうなると思う?
答えは、長期間熟成のため伸縮性がなくなって、巻く際に破れてしまって巻けないんだよ。だからマデュロラッパーは、通常のラッパーよりも厚みが厚い。丈夫でないと、長期間熟成に耐えないからね。もちろんラッパーとして巻く作業を考えた上での話としてね。
レギュラーシガーのラッパーの重量比は、おそらく葉巻の7%くらいだと思う。ELは10%を超える。このコイーバ1966なんかは、12~13%くらいあるんじゃないかな?
実はELを、ラッパーありとなしで吸い比べてみたことがある。1本はラッパーのある状態で吸ってみて、もう一本はラッパーを外して吸ってみた。その結果、明らかに風味が違ったよ。──

さすがはハムレット、葉巻への造詣が深いことはもとより、葉巻への情熱が違います。探究心を未だに失わずにいるんですね。この話題は、私にとっても実に興味深い話でした。

ちなみに彼はこうも言っていました。葉巻の風味を決めるのは、やはりタバコ葉だと。
──80%はタバコ葉で決まる、残り20%は巻き手のテクニックだ。だから、いくらトルセドールの技術が高くても、良いタバコ葉を使わなければ、美味しい葉巻は出来ない。逆に、トルセドールが下手でも、タバコ葉が良ければ、概ね美味しくなるよね──と。

これ聞きながら、私はこんなふうに感じていました。
ハムレット自身が、一流の巻き手であるからこそ言える余裕なんだなと。そしてハムレット自身、キューバのタバコ葉を愛し、心から信頼しているからこそ言えるんだろうなと。

【 メディオ・ティエンポ 】
コイーバ1966を二人で薫らしながら、話はベイーケに移ります。
皆さんはメディオ・ティエンポという言葉を聞いたことがありますか?
葉巻は通常、リヘロ、セコ、ボラードという、3つの異なる強さの葉を組み合わせて巻かれます。それぞれタバコの苗の部位によって分けられていて、たばこ苗の上の方から、リヘロ、セコ、ボラードとなります。リヘロは非常に風味が強く燃えにくく、ボラードは風味が軽く燃えやすい葉です。
ベイーケにはメディオ・ティエンポという種類の葉が使われていると、Habanos S.A.も公式に説明しています。しかし以前から、私の持っていた疑問は、メディオ・ティエンポって何?どんな葉?というものでした。そこでハムレットに尋ねてみました。

メディオ・ティエンポって見たことある?

──あるよ。それは通常の葉よりも小さくて、風味が非常に強い。少ししか使わないなら、それほど強い葉巻にはならない。だけど、多く使いすぎればバランスの悪い葉巻になってしまう。
言ってみれば刺身とワサビみたいなもんだよ。ワサビは辛いけど、少しだけ使うなら刺身を美味しくするだろう?要はバランスだと思うよ。──

なるほど、面白い見解です。そもそもなぜキューバ人のハムレットが刺身を知っているかと言えば、彼は日本に来たことがあり、その時に刺身を食べているのです。キューバ人は一般に辛い食べ物が苦手で、ハムレットもワサビは苦手だったらしく、自分はあまり好きじゃなかったけどね、と以前言っていたのを聞いたことがあります。

さて、未だ私は見たことがないメディオ・ティエンポ、エル・ラギート工場に行けば見られるかと聞いてみると、彼は笑いながらこう答えました。

──もちろん見られるだろうよ、そして、エル・ラギート以外では見られないんじゃないかな。──

ハムレットとこの話をした翌日、私は幸運にも再びエル・ラギート工場を訪問することが出来ました。そこでメディオ・ティエンポを見せて欲しいと、一人のトルセドーラに頼んでみたのです。
これが、そのメディオ・ティエンポです。

メディオ・ティエンポ

ベイーケに使用されるメディオ・ティエンポ

確かに、通常のフィラー用の葉よりも一回りサイズが小さいですね。メディオ・ティエンポは、リヘロよりもさらに強いタバコ苗の頂部につく葉のため、やはり葉の大きさは小さくなるようです。

ちなみにメディオ・ティエンポの熟成期間は、なんと5年間とのこと。さすがはベイーケ、5年といえば、レゼルバに匹敵する熟成期間です。もちろんベイーケのフィラー全てが5年熟成葉ということではありませんが、あの、鼻腔で爆発するようなむせ返る香りは、やはりこのメディオ・ティエンポが一役買っているに違いありません。

そしてハムレットは、ベイーケをこう表現していました。──ベイーケは、自分にとっては、とにかくクリーミーな葉巻だ──と。

【 非キューバ産葉巻のボックスに、巻いたトルセドールの名前が書かれている不思議 】
ふと思い出したように、ハムレットが私に尋ねました。──ドミニカだったかニカラグアだったか忘れたけど、ボックスの蓋裏に、トルセドールの名前が書かれたボックスを見たことある?確かダビドフかパドロンだったと思うけど。──

私はちょっと記憶になかったので、いやないかな、と答えると彼はこう話を続けました。

──そうか、私は以前そういう葉巻を見たことがあるんだけど、とても不思議に思うんだよ。何故かというと、そのボックスはきれいにラッパーカラーが揃っているんだ。──

ここまで聞いて私はピンときました。そして二人で目を見合わせて大笑い。

私は続けて尋ねます、それはプレミアムシガー?良い葉巻であることをアピールするために、トルセドールの名前が入ってるの?

──そう、かなり高価なプレミアムシガーだった。だから不思議に感じたんだよ。リオは知ってると思うけど、キューバの葉巻はどのタバコ葉も一切人工的に手を加えないよね。もちろんラッパーに着色したりもしない。だから、選び抜かれたラッパーさえも、全く同じ色になることはあり得ない。だから、巻き終わった葉巻を、ラッパーカラー別に選別して、近い色の葉巻を1つのボックスに収めるよね。
1つのボックス内では概ね葉巻の色はそろえてある、だけど、他のボックスと比べれば、ラッパーの色は全然違う。つまりキューバの葉巻は、25本入りボックスなら、最大25人のトルセドールが巻いた葉巻が入っていることになる。

でも例の非キューバ産のボックスは、25本全て1人のトルセドールが巻いたことになっている。そしてラッパーカラーは同じ色に揃っている。実に不思議だろ?ラッパーを着色しないと、こういうことは不可能だと思うんだ。実際に着色してあるかどうかは分からない。だけど、自分はこう呼んでるんだ、Painted Wrapperとね。──

プレミアムな葉巻の世界では、そのプレミアム感を演出するために、時に様々な仕掛けが実行される場合があります。巻いたトルセドールの名前入りボックスも、そのプレミアム感の演出の一つだったのでしょう。ですが、ハムレットとの会話にあるように、プレミアムシガーの作られ方を知っている者からみると、実におかしな話なのです。

謎多きキューバ葉巻ではありますが、頑なに守られているルールも数多くあります。それは、世界最高の葉巻を作り出すのに、どうしても不可欠な事柄なのです。
キューバの葉巻づくりの大切な伝統とルールが、これからも変わらないことを願います。

関連記事

  1. Tak.S

      面白い記事で、大変勉強になりました。

      以前ヨーロッパにいた際、ネット上でリミテッドはラッパーが風味や旨味に影響があるのでは?と議論されているのを見たことがあります。
      そこでもラッパーの量が通常、同じサイズの葉巻に対して多いように思うと、剥がして実測している人もいました(勿体ない!w)
      この記事を見て、ようやくそれも納得です。
      そして、ヨーロッパの葉巻好き達の違いを研究する熱心さにも感銘を受ける思いです。

      それと、記事に出ているハムレット氏の言っていたラッパーを巻いた職人のサインが入っている葉巻は、多分ダンヒルが一時期出していたサインジドレンジというシリーズのことではないかと思います。
      これは近年人気になってきているニカラグア産のハバナシードで巻かれた葉巻で、ボックス内25本全てが同じ人間によって巻かれていること、極力同じ色合いのラッパーのみを厳選した証としてサインしたものだったと思います。
      よって色合いなど一切着色等はしていない完全なプレミアムシガーですよ。
      私もそれぞれ箱買いしましたが、確かに同じ色、寸分違わぬ巻き加減といい、素晴らしい技術を持った職人が責任を持って巻いたんだと感心したほどです。
      まぁ、味についてはやはりというべきか、技術に追いついているとは言い難いものでしたが…w

    • kataokario

        コメントをいただき、ありがとうございます。
        私も久しぶりに記事を読み返してみて、我ながら興味深く当時の会話を思い出しました。

        そうですか、ヨーロッパの方の葉巻に対する探究心は、その歴史の長さもあって深いですね。そういう葉巻談義ができるのも、葉巻愛好家の大きな楽しみなのだと思います。
        なうほど、ダンヒルのサインドレンジという葉巻だったんですね。この記事を自ら書いていながら、何という葉巻なのかは調べていませんでした。

        同じ色のラッパーで巻くというのは、出来なくはないのかもしれませんね。先日エル・ラギート工場に行った際、デスパリージョしているラッパーを見ましたが、一人一人が作業している葉の色はそれぞれ、ある程度揃っていました。もちろんそれをさらに色別に数種類に分類しているのですが、その分類状態で既に、結構揃ったラッパーカラーと言えるかもしれません。トルセドールがさらにそこから厳選すれば、仰るとおりほぼ同一ラッパーカラーの葉巻を一人の職人が巻くことも可能なように思えます。

        味わいは、やはり…そうですか(笑)
        ハムレットも言っていたように「味わいはタバコ葉によるものが80%」いや、ごもっとも。といったところですね。
        楽しいコメントをいただき、ありがとうございました。