旅のレポート 3・4・5・6日目

● 3日目(2008年7月6日)

今日は旧市街のシガーショップをいくつか回ってみることにする。
メリア・コイーバのLCDHはそれほど品揃えが多くなかったので、旧市街のLCDHで面白いものが見つけられると良いのだが…。

旧市街はメリア・コイーバからタクシーで5分ほどの場所だった。昨日は結局ホテルから一歩も出なかったので、キューバを自分の足で見て回るのは、今日が初めてのになる。
7月は雨季だと聞いていたため、今回のキューバ訪問では一日に何度か降る激しいスコールを覚悟していたが、この日は抜けるような青空で湿気も少なく、空は抜けるように高かった。しかし気温は朝10時過ぎの時点で既にかなり高く、日向を歩いていると肌をジリジリと焼かれるような日差しだ。

タクシーを降りたのは、ハバナ旧市街のカテドラル近く。
スペイン統治時代の建物が多く残るためか、光と影のコントラストが高い景色のためか、そこはスペインを髣髴とさせる町並みだった。アカシア類の赤い花が、深く青い空に映えとても印象的だった。

初めに歩いたのはTacon通り。この通りは旧市街でも観光の表通りなのか、建物にも綺麗にペンキが塗られ、町並みが古いわりには清潔感のある通りだ。そこからカテドラルのあるカテドラル広場に出ると、広場の南にキューバ音楽を奏でる5人の老人たちがいた。彼らの奏でるギターの音と歌声が広場に響き、なんとも言えない心地良い雰囲気が広場に満ちている。私は音楽は好きだが、特にキューバ音楽に関心があるわけではなかった。しかし、彼らの音楽には足が止まり、しばらく聞き入っていた。

広場や通りには他にもキューバならではの人々がおり、その代表格が「コイーバ、モンテクリスト、シガー!」と、ほぼフェイク間違いなしのシガーを売りつけようとしてくる輩だ。
もう一つのパターンが、葉巻に火をつけずに咥えたままの老人だ。彼らは道端に座っていて、観光客から写真を撮られるのを待っているのだ。キューバらしい写真を観光客に提供するために。
もちろんタダで写真を撮らせるわけではなく、写真を撮ると「まいどどうも…」と言わんばかりに、モデル料を請求するのである。私は吸いもしないシガーを咥えている彼らを、どうしても好きになれなかったのだが、火をつけていない葉巻を咥えたある老婆の横で、40代の女が彼女の写真を「撮れ撮れ」という仕草をするので、私は手振り身振りで「葉巻の先に火をつけろ」と返しておいた。向こうも向こうだが、あとで考えると私も大人気ないことをしたと多少反省したのではあるが…。

一軒目に見つけたLCDHは、カテドラルの近くにあった。ホテルの中というわけではなく場所の説明が難しいので、とりあえず入口の写真を載せておくのでご勘弁いただきたい。

メリアコイーバのそれよりも店内は広く、店の奥にあるウォークインヒュミドールの規模も大きい。シガー状態の比較のために、メリアコイーバでも試し吸いしたパルタガスのセリーD4を1本買おうと思ったが、ばら売りしているものがなかったので買わなかった。
今回キューバのLCDHでは、スーツケースに入るだけ買って帰ろうと考えているのだが、出来ればエイジドシガーか、若しくは新しくても、日本では手に入らないような品質のスタンダードなシガーを買って帰りたいと考えている。
なので、何店舗かLCDHの当たりをつけておいて、キューバ滞在の後半にまとめて買う予定だ。このカテドラル近くのLCDHも品揃えは悪くないので、また来ようと思った。

この後は、旧市街をぐるぐると歩き回り、表通りとは全く表情の異なる裏通りを見たりした。奥まった裏通りに迷い込むと、スペインを思い出すと書いたカテドラル付近の通りとは全く異なり、建物は崩壊寸前といった趣だし、道路もゴミが散乱して汚く、悪臭が漂っている。あまりに建物が老朽化したままになっているせいか、人も住んでいないようで、通りを歩く人も閑散としている。夜はあまり歩きたくないような場所である。

1時間ほど歩き回ったあと、あまりの暑さで頭がボーっとしてきたので、ホテルサン・ミゲル横のカフェでレモネードを飲んだが、これが抜群に美味しかった。ここのレモネードはフレッシュライムと氷をフローズン状にした飲み物で、モヒートも良いが、暑いキューバにはこのレモネードも抜群に合う飲み物だと思った。
このカフェのボーイがなかなか気の利く男で、1杯目のレモネードを持ってきたときは「サルー(乾杯)」と言って去っていった。レモネードだから、もちろんノンアルコールである。
あまりに美味しかったのでもう一杯注文し、2杯目を持ってきたときは、今度は「エンジョイ!」と言って去っていった。よほど私が1杯目を美味しそうに飲んでいたのだろうか…。しかし「エンジョイ!」とはいい言葉だなと思った。
こういうホスピタリティーをキューバ人が皆持ち合わせているかというと、そうではない。資本主義経済が徐々に導入されつつあるとは言え、まだまだ社会主義時代の労働精神が根強く残っており、無愛想で嫌そうに仕事をしている人々も少なくない。しかしこのカフェのボーイはやはり一味違っていて、私がタバコに火をつけようとタバコを出すと、目ざとくそれを見つけ灰皿を持ってきたかと思うと、私が自分で火をつけるよりも先にライターを出して、私のタバコに火までつけたのには少々驚いた。日本の飲み屋で、即ボーイとして働けそうな男である。

そのあとは、近くまで来たのでヘミングウェイ縁の店として名高いラ・ボデギータ・デル・メディオへ行った。まぁ、有名な観光スポットということで観光客は多いが、私にはそれ以上の感動は無かった。

ヘミングウェイと言うと「老人と海」が有名だが、そういえば私もだいぶ昔に読んだことがあった。あの小説は徹底的に第三者視点で描かれているのが特徴だが、しばし、あのカジキマグロと戦う老人に思いをはせることが出来たのは確かである。

そしてこの日、一番行きたかった場所へ足を向ける。そう、ハバナシガーファンの巣窟、ホテル コンデ・デ・ビジャヌエバだ。このホテルの2階にあるLCDHにはハウスシガーを巻く腕の良いトルセドールが居て、私はそのシガーを求めてやってきたのだ。



ホテルは、明るい光の射すパティオを取り囲んだ小さな建物で、その店はパティオを見ながら上がる細い階段の先の2階にある。店内は3つの部屋に分かれていて、ドアを入るとまずメインのシガーショップ。右奥にはロッカータイプのシガーキャビネットが置かれたウォークインヒュミドール。左側の部屋はカウンターとテーブルのあるバーになっていて、買ったシガーをここでゆっくりと楽しむことも出来る。
ショップスタッフのシガーローラー、彼の名はレイナルド・ゴンザレス。口ひげを生やした人懐こい顔で、何かの映画で見たことのあるような顔だ。

私は彼に、あなたの巻いたシガーを見せてほしいと頼むと、笑顔で右奥の部屋へと私を案内し、ロッカーからさまざまなヴィトラのシガーを出してくれた。その種類たるや実に多彩で、ロブスト、チャーチル、コロナゴルダ、ピラミデ、ロンズデール、ラギートNo.1、サロモネス、ダブルコロナ…と書き出せばきりが無い。さらに現行のHabanosラインナップには無い、ダブルロブストくらいのヴィトラもあった。

そして彼が私に「何のヴィトラが好きなんだ?」と聞くので、「コロナゴルダ、ベリコソ、ロブストなんかが好きだ。」と答えると、好きなヴィトラを1本プレゼントすると言ってくれた。シガーを好きな方ならわかってもらえるだろうか、欲しかったシガーをプレゼントされる喜び、これはたとえ1本でも本当に嬉しいものだ。このキューバ産のプライベートロールシガーは、ここキューバへ来て、このホテルへ足を運ばなければ吸うことが出来ない特別なシガーなのだ。

私は彼に感謝の言葉を伝え、ロブストを1本もらうことにした。そしてさっそく火をつけてみる。最初に驚いたのは、ドローが実にパーフェクトなことだ。ドローの楽さ・きつさには好みもあると思うが、実際のところはドローが良すぎると燃焼温度が上がりクールスモーキングできなくなり、逆にドローがタイトだと、吸うのに疲れてしまい、なかなかパーフェクトなドローにめぐり合えないことも多いものだ。しかい彼の巻くシガーは完璧なドローだった。
彼いわく、このシガーは1998年収穫の10年熟成させたタバコ葉を使って巻いたものらしいが、未だにそのボディーの強さは衰えておらず、フルボディーに近い強さを持っていた。味わいはキューバンらしい味わいをベースに、トーストの香ばしさ、そしてかすかなレザーの香りが効いた風味で、Habanosのブレンドでは味わったことの無い美味しさだった。
明日、HAMLETのシガーを75本購入予定なので、彼のシガーを多くは買えないことが悔やまれたが、彼に理由を話すと「HAMLETは友達だよ。」と教えてくれた。それから、明後日私がアレハンドラ・ロバイナと会うことを話すと、彼はとても良い人だそうだ。確かに写真などで見ると、表情にそれがにじみ出ている。

あまり多くは持って帰れないにしても、キューバ滞在中に彼のシガーを吸おうと思い、5種類8本のシガーを買って帰ることにした。すると、さらに2本シガーをプレゼントしてくれるではないか。
自分の巻いたシガーをプレゼントする、その気持ちが私には何となくわかった気がした。自分の巻いたシガーで人が喜んでくれること、それがきっと彼の喜びでもあるのだろう。彼の好意に甘えつつも感謝し、滞在中にまた来ようという思いを胸に、彼に心からのお礼を伝え、店を後にした。

● 4日目(2008年7月7日)

H.UPMANN工場見学

● 5日目(2008年7月8日)

ベガス・ロバイナ農園見学、ドン・アレハンドロ・ロバイナと対談(準備中)

● 6日目(2008年7月9日)

今日でキューバ滞在も5日目となった。明日は帰国なので、キューバ滞在の最終日は、シガーとラムの買い付けに出かけることにした。
買い付けにキャッシュを準備しようと思い、メリア・コイーバ内のCADECAでクレジットカードからキャッシングをする。1000兌換ペソ(1兌換ペソは 120.8円、2008年7月現在)キャッシングすると1119.2US$だったので、1US$=108円だとすると、現金を両替するのと全く同じレートということになる。クレジットカードからのキャッシングはUS$ベースなので手数料を取られると思っていたが、そうではないようだ。

キューバでシガーを買って日本へ持って帰ろうと思うなら、必ずLa Casa del Habanosで買うことになる。ショップはハバナ市内に何店舗もあるが、ホテルに入っていることが多い。私は品揃えの多い店で買いたかったので、メリア・ハバナと5Y16の店に行くことにした。

メリア・ハバナのロビーフロアから1フロア降りて奥へ進むと、グランドフロアにLCDHはある。ここは店も広く品揃えも豊富だったので、欲しかったシガーを数種類購入する。仕入れ用と個人用だ。
買おうと思ったシガーについて、それぞれボックスコードを確認してみたが、2006~2008年のものが大半だった。2006年物が2年程度のエイジングでどの程度良い状態に変化しているのかは分からないが、近年品質向上が顕著なことと、工場から出荷したてのシガーは美味いことが多いため、2008年のものを中心に購入することにした。

シガー購入後、広い店内の中央に置かれたカウチで、コーヒーを飲みながらシガーを吸っていると、レジカウンターの後ろにベガス・ロバイナの陶板レリーフがあることに気づいた。そこで、ショップスタッフにドン・アレハンドロ・ロバイナのことを聞いてみると、やはり知っているという。famous peopleだと言っていたが、…確かに。店にも来たことがあるらしい。
話をした彼女の名はAdacil Gufierrez Teruel。スタッフといってもシガーの担当ではなく、バーのスタッフだ。私にスパニッシュかと聞くので日本人だと答えたら、「日本人には見えない。仕事はモデル?あなたはとてもエレガントだ…」と、矢継ぎ早に褒めてくる。シガーをまとめ買いしたしたからだろうか?
他にもいろいろな話をしたが、とにかく、明るくてなかなかキュートな女性だった。

私の葉巻店ではポール・ララニャガが良く売れるのだが、メリア・ハバナのLCDHには置いてなかったので、次に5Y16の店に行ってみることにした。

この店はメリア・ハバナほど広い店内ではないが、バースペースが広く、しかもシガーの品揃えも非常に豊富だった。ここでメリア・ハバナには無かったポール・ララニャガを見つけたので、即購入することに。

一通り欲しいシガーを購入できたので、一旦ホテルに戻って荷物を置いてから、もう一度旧市街に足を向けることにした。

旧市街ではまずパルタガス工場へ行き、工場入口にあるシガーショップを見てみる。ここはLCHDでは無いようで、品揃えもあまり良いとは思えなかった。ただ、一般観光客としてキューバに来て葉巻工場を見学できるのはここだけなので、観光客相手にお土産としてかなり売れているようだ。
つづいて葉巻博物館のLCDH、ホテル・バレンシアのLCDHと行ってみたが、いずれも小さな店で、品揃えも良くなかった。近くまで来ているならついでに寄ってみるのは良いと思うが、購入目的であればメリア・ハバナか、5Y16をお勧めしたい。

朝からシガーショップ巡りをしていたら、時間は夕方近くになっていた。最後はのんびり観光でもしようとサン・フランシスコ広場の方へでてみると、サン・フランシスコ・デ・アシス修道院の庭がきれいだったので入ってみることにした。




見知らぬ土地へ来て、石で囲まれた建物の中をゆっくり歩いていると、遠く日本から離れた場所へ来たんだな…という実感があった。郷愁とも静かな感動ともわからないような感覚を胸に感じながら、しばらく私はこの修道院で時間を過ごしたのだった。

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